

「習慣」の落とし穴
−時間がかかるうえに要点が不明確になってしまう文書作成−
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企業により違いはあれ、社員が文書作成に要している時間は少なくありません。残業して文書を作成している実態もあります。文書作成時間の短縮は、企業にとって重要な課題です。企業も執筆者もそれぞれに工夫をしているはずですが、その労力は報われているでしょうか。もしかしたら、提出までの時間は短縮されても文書を受け取った読者が理解に手間取り、読者が理解するのに時間を要する結果になってはいないでしょうか。実は、執筆者がよかれと考えて使っている文書作成の「習慣」、「手法」がかえって読者に要点を伝わりづらくしている可能性があります。
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「習慣」を疑わない危うさ
「書くべきことはわかっているつもりだが、何からどう書いてよいのかわからない」、「前例を参考にして第1文は書けたが、その後が続かない」などの状況に執筆者はよく陥ります。それは、先に述べた「文書構成力(主題を位置付け、主題を受けた要点を述べ、必要に応じ箇条書きや図・表で補足する)」が欠如しているあるいは十分に発揮されていないからと言えます。
業務の中で実務文書を作成する機会があるならば、どこかで体系的な文書作成手法を知り、それを基礎にして自身の文書構成力につなげる必要があります。ところが残念なことに、教育の過程で「体系的な(さまざまな文書作成に応用できる)文書作成手法」を知る機会は多くありません。結局、執筆者は「自身が経験から会得した習慣」あるいは「自分本位に解釈した手法」で書いている実情があります。その結果、執筆者はよかれと思っていても、読者には要点が明確に伝わらない文書ができてしまう可能性があります。
問題提起:「起承転結」を自分本位に使っていないだろうか
「何を書いよいのかわからない」と、「時間軸に沿って書き進め、書き進めるうちに“浮かんできた”結論を最後に述べる」傾向が執筆者にはあります。 しかし、実務文書で結論が最後では、要点の後送りと言えます。読者には何が要点なの知らされないまま続く“まわりくどい”叙述になりかねません。さらに、これを自分本位に「起承転結」と解釈している執筆者もいますが、正しい理解とは言いかねます。
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「起承転結」は、誰しも小・中学生のころからなじみのある語です。「作文」の構成法として教わったかもしれませんが、実務文書を作成するために考案された構成法ではありません。もともと起承転結は「漢詩」の構成法の一つです。そこから派生し、「前段で状況と事の起こりを示し、後段でヤマ場を作り、結末に至る」物語の構成法として使われますが、物語と実務文書では主旨が大きく違います。
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加えて、本来の起承転結の「結」は物語の「結末(いわゆるオチ)」と位置付けるのが適当です。実務文書の「結論(要点)」とは位置付けが異なります。執筆者が「自身の結論を誘導するために“起承転結風”に段落を構成」してしまうと、読者は“結論が見えないまま執筆者の思考過程に付き合わされる”ことになりかねません。
また、起承転結は“ストーリー”構成法の一つですが、唯一の手法ではありません。実務文書では、むしろ要点(結論)を先に述べる段落構成が適当です。「要点は何?」と聞かれてしまう原因の多くは、執筆者が要点を後送りにしがちな習慣にあると言えます。さらに、その習慣に至る原因は執筆者が体系的な文書作成手法を知らぬままに企業の実務に携わり、さまざまな文書作成手法の良し悪しあるいは適切な用い方を知らぬままに習慣化していることにあると言えます。

問題提起:「以下に・・・を示す」の落とし穴
しばしば「図・表にするとわかりやすい」を“一面的に解釈”した結果、「文が苦手。何をどう書いよいのかわからない」が「文を書かず図・表にすればよい」にすり替わり「以下に・・・を示す」としていきなり図・表だけを示している例(あるいは補足を付けた図・表)をよく見かけます。
「図・表にするとわかりやすい」は“部分的”な正論です。本来は「段落(文)を図・表で補完し相互に関連付けるとわかりやすい」あるいは「段落(文)の一部を図・表で表現するとわかりやすい」であって「以下に・・を示す」として図・表に丸投げしてもなんら解決にはなりません。

しばしば、「多少工夫を加えた図を示すのが図解」と誤解されているような図を見かけます。確かに、図によって文だけでは表しきれない「情報」を示せます。しかし、図だけでは要点は伝わりません。文と効果的に組み合わされてこそ図が有効と言えます。

問題提起:「箇条書きにするとわかりやすい」を自分本位に解釈していないだろうか
「要点を箇条書きにする」つもりで見出しの直後に箇条書きだけを示している例をよく見かけます。しかし、箇条書きだけでは読者は「複数の項目がどのように関係しているのか」、「それらによって何がもたらされるのか」を理解できません。そこに「執筆者は要点をまとめたつもりでも、読者には要点が何なのかわからない」という矛盾が生じます。要点とは「“本来、一つに”集約された事項」であって、箇条書きのように複数の事項の列挙ではないはずです。

プレゼンスライドでも同様な事例をよく見かけます。「要点は・・・」と言いつつ箇条書きだけを表しても、それが聴衆にとって何を意味するのか、明確に一つにまとめて語句で明示しないと十分に伝わりません。すなわち、「メッセージ」に欠けるプレゼンと評価されてしまう原因です。

問題の解決:「習慣」から「テクニカルライティング」へ
「習慣」を自分本位に解釈して用い読者の理解を損ねている例は述べた以外にも多々あるように思います。「執筆者が読者の理解のためにと思っているのに、読者にとっては逆効果」では意味がありません。自分本位の解釈によって、執筆者と読者が貴重な時間を無為にしているとしたら残念です。
執筆者の労力が報われるためにも、文書作成手法を体系的、すなわちテクニカルライティング(目的に応じた技術文書を作成するための知識と手法の体系)として整理する必要があります。この提案は、新しい知識を一から習得し、文書構成力を養うという主旨ではありません。従来の知識を体系的に見直し、必要な知識を根本としています。
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先に「文書作成手法を知る機会は多くない」と述べました。それに対し「大学で論文の指導を受けている」というご指摘があるかもしれません。しかし、大学のレポート・卒業論文と企業の報告書では同じ「報告」であっても求められる要点が違います。前者は主に事象の解明であり、後者ではさらに課題の解決が求められる場合が多いはずです。企業の報告で「データはよくまとめられ解釈もされているが、課題とその解決の可否(加えてその要件)が曖昧」と指摘される報告が多いのは事実です。「文書の目的に応じ、いかに要点を位置付けるか」を実務での応用を前提に教育している事例はきわめて少ないと思います。
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実務で作成しなければならない文書は、報告書だけでなく機能仕様書、マニュアルなどさまざまです。これらの共通基礎と目的に応じた各論が整理されているでしょうか。書式、文体、用語あるいは図・表および箇条書きの使い方など、文書作成にあたって知っておくべき事項は多々あります。
文書作成手法は「執筆の効率化」と「読者の理解」を両立してこそ意味があります。テクニカルライティングの主旨は、「読者の理解から文書作成を発想し、執筆者が迷うことなく文書作成を進める」ことです。「(もしかしたら自分本位で解釈しているかもしれない)習慣」を続けるのか、知識と手法を体系的に理解して文書作成を進めるのか、結果には大きな違いがあると思います。

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