読者にとって必要な語を無意識に省略してしまう傾向が執筆者にはあるといえます。繰り返すと冗長になる語を省略する例はあるとしても、文の構成および読者の理解に必要な語まで省略してしまうと読者の疑問につながりかねません。
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「必要な語の省略」は、「語の欠落」と言えます。文を構成するのに必要な語とともに読者の理解に必要な語の欠落を避けるべきです。
ここでいう文を構成するのに必要な語とは、述語に加え「省略を避けるべき主語」あるいは「他動詞文の目的語」を指します。
対して、読者の理解に必要な語とは、対象・状況・程度を補足するのに必要な語を指します。たとえば、「連体修飾語(名詞にかかる修飾語)」であり「補語(述語にかかる修飾語)」に相当します。
「主となる視点(人称)」以外の主語を省略しないのが基本です。不要に他の主語も省略してしまうと「1文に複数の省略された主語」が存在し、行為あるいは動作の主体が曖昧な文に陥るおそれがあります。
先のセクションで『日本語では、文書あるいは段落で「主となる視点(人称に相当)」を統一し、これが主語となる場合は省略するのが一般的』と述べました。「視点の統一」は、すなわち「省略できる主語は特定(一つ)の視点に限る」に相当します。
上記以外に「前文を直後の文で補足する際に前文自体が主語に相当する場合に補足文の主語を省略する(長い文を二つに分割した場合に相当)」のも誤解をまねかない範囲と言えます。
安易に他動詞文(前述の「他に作用を及ぼす文」)の目的語(**を)を省略するのは避けるべきです。前後関係から他動詞の対象(目的語に相当)が明かであっても、「目的語がない他動詞文」は“自動詞文風”にも読めてしまうとともに文としての成立を欠きます。
しばしば、「見出し名に目的語に相当する語がある」あるいは「操作対象を誤るはずはない」として目的語を省略している例を見かけますが、他動詞文なのか自動詞文なのかの曖昧さにもつながりとともに不自然な印象を受けます。
また、取扱いマニュアルでは「何を操作(あるいは禁止)の対象にしているのか」はきわめて重要です。安易に目的語を省略すると誤操作につながるおそれがあります。
加えて、十分に自明な場合以外の補語(他動詞文、自動詞文あるいは受け身文の述語にかかる修飾語)を省略しないのが適当です。
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