電子マニュアルだからといって専用の作成ツール(ソフトウェア)とファイル形式をイメージする必要はありません。文書スタイルの電子マニュアルならば、ワープロソフトあるいはプレゼンソフトなどいわゆる「Officeソフト」を活用できます。タブレット端末に合わせたページレイアウトと書式で図解マニュアルを作成したら、それが“正確に変換”されるファイル形式を選ぶだけです。 |
ワープロソフトとプレゼンソフトではその用途が異なりますが、見方を変えればともに「固定ページ型」の文書を作成するための身近なツールと言えます。
これまでのセクションで、タブレット端末の狭い画面で付帯的重要事項(読む理解が中心)が多いマニュアルを構成するには、「読む(段落)」を要素化するとともに「見る(図)」と関係付けた「図解形式」が適当と述べました。また、狭い画面を有効に使うとともにページの単元を明確にするために、「横使い」と「ページ送り」形式が適当と述べました。ワープロソフトあるいはプレゼンソフトはいずれの使い方も可能です。
電子版図解マニュアルの作成ツールとして見た際、ワープロソフトには見出し構成(アウトラインプロセッサ機能)の検討がしやすいとともにページの調整が簡単な利点があります。1セクションが複数ページで構成される場合、セクションの最初のページと以降のページの関係が自動的に構成されるとともに執筆者が望む位置で改ページが可能です。加えて、書式の設定をスタイル化して効率よく文書を作成できます。
ワープロ文書をPDF文書に変換すればページの区切りを維持したまま電子文書化できます。PDF文書とした後、さらに電子文書としてのさまざまな編集(リンク、Acrobat Proによる動画の挿入など)も可能です。
プレゼンソフトも選択肢の一つです。プレゼンソフトは階層的(章−節−項)な見出し構成を有する文書の作成には適しませんし、またプレゼン資料を作成する際にはそのような用い方をすべきではありません。ただ、見出しの階層構成を2ランクにとどめるとともに章見出しを中扉の扱いとすれば、電子マニュアルにも応用できます。
プレゼンソフトならばリンク、動画あるいはサウンドの組み込みが簡単ですし、スラードショー形式で保存すれば1ファイルで完結した電子マニュアルになります。閲覧する際にはプレゼンソフトを用いずとも無料でダウンロードできるビューアソフトが使えます。
執筆者が意図するレイアウトをタブレット端末(あるいはPC)上で再現できる「固定ページ型」の電子文書を作成する際のファイル形式には、PDF(Adobe Acrobat)形式が第一の選択肢と言えます。
PDFなど汎用よびビジネス用途を指向したファイル形式に対し、EPUBなど電子出版を指向して仕様の策定が始まったファイル形式は、マニュアルに比べレイアウトの制約が少ない文書(小説をはじめ新聞・雑誌など)を主対象にしている段階です。誰もがワープロで文書を作成しPDF文書に変換するように扱えるにはさらに段階を経る必要があると考えます。先に述べたように作成ツールを固定ページ型のOfficeソフトにしておけば、さらに進化したPDF形式にも他の電子文書用ファイル形式にも共通して使えます。
ファイル形式 |
電子マニュアルの要件から見た電子文書のファイル形式(2011年1月現在) |
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汎用およびビジネス用途を指向したファイル形式 |
主に電子出版(電子書籍など)を指向したファイル形式 |
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XPS |
HTML |
提供事業者による独自形式 |
オープン形式(EPUBなど) |
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ページ形態 |
固定ページ |
固定ページ |
可変ページ(リフロー) |
可変ページ(リフロー)/固定ページ |
可変ページ(リフロー)⇒ |
スタイルの指向性 |
文書スタイル |
文書スタイル |
書式付テキスト/ |
文書スタイル/マルチコンテンツ |
文書スタイル/マルチコンテンツ |
閲覧ツール |
Acrobatリーダ |
Webブラウザ |
Webブラウザ |
規格に準拠したリーダ |
規格に準拠したリーダ |
基本の閲覧形態 |
ページ送り |
ページ送り |
スクロール |
ページ送り |
ページ送り |
普及の程度 |
広く普及 |
普及段階 |
広く普及 |
一般用途には製作環境は非提供 |
仕様が確立の途上 |
適した電子マニュアル |
文書スタイルの |
簡略な動画マニュアル |
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動画を取り入れた |
「電子マニュアル=Webブラウザで読むマニュアル」としてHTML形式(いわゆるWeb形式)を候補とされるかもしれません。しかし、HTML形式は「可変ページ型」で用いるのが一般的です。セクションが長くなると縦のスクロール操作で閲覧しなければなりません。また、セクションの数だけファイルが増えます。
むしろ、HTMLは動画マニュアルの基盤として扱うのが適当と言えます。タブレット端末の解像度(例:1024×768)に対応したページサイズに設定したHTMLファイルに動画ファイルを埋め込むとともに付帯的重要事項を段落で補完する使い方が適しています。
電子文書の普及が進めばこれに応じてワープロをはじめとしたOfficeソフトにXML形式を基盤とした汎用的な電子文書用ファイル形式(例:ビジネス用途にも応用しうる仕様のEPUB)が標準で備わると予想します。それまで「電子書籍のファイル形式論争」に巻き込まれてファイル形式選びに迷う必要はありません。
一部のOfficeソフトにPDF形式とともに標準で備わっている電子文書用ファイル形式として「XPS形式(XML形式を基盤)」があります。ワープロ文書などをXPS形式に変換すれば、レイアウトが維持されたままWebブラウザで閲覧できます。
XPS形式がPDF形式ほど標準となるかは別として、XML形式を基盤として「執筆者が意図したレイアウトが維持され、かつ電子文書としての特長を活かせる汎用的な電子文書用ファイル形式」が身近に使えるまでは文書スタイルの図解版電子マニュアルにはPDF形式が適当と考えます。
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