テクニカルライティングの効果
文書品質の向上と文書作成時間の短縮


考えが文にまとまらないを解決するためのテクニカルライティング

   

本サイトで提唱するテクニカルライティングは、文書作成の見直し方にとどまらず「考えを文にまとめられない」状況の打開につながると言えます。「まとめられない。でも、仕事だから書かなければならない」の結果、無理が生じ「伝わりづらい文書」に陥る場合があります。しかし、それ以前に「まとめられない」で手が止まってしまい、時間を浪費していてはさらに深刻です。テクニカルライティングにより「文書目的に応じた段落構成」を知り、さらに企業全体で文書品質の向上を推進すれば、個人の論述力の向上にもつながります。


言語力の低下」とかたづける危うさ

考えが文にまとまらない」に続けて「技術者はもともと国語が苦手だ」とおっしゃる方に出会うことがしばしばありましたが、いつごろからか「言語力が不足している」とおっしゃる方が多くなりました。ただ、これらには同意できる部分同意しかねる部分があります。

年少者が「言葉(あるいは簡略な文)で意向・見解を伝える力が未熟」なのは、まさしく言語力の形成・成熟過程にあるためです。対して、社会人の「考えが文にまとまらない」の場合は、「まとめようとしている事項が複雑あるいは多すぎ、かつ“うまく”まとめようと配慮するあまり(すなわち、あれこれ考えすぎ)、一種の“思考の飽和状態”に陥っている」と言えます。

注:「言語力」を広くとらえ「論述力」さらには「修辞力」などを含めて「(総合的な)言語力」とする見方もありえますが、問題を明確化するため上記のようにここでは「言語力」を論述の基礎力と位置付けます。


技術者は文書が苦手」の思い違いから生まれる負の連鎖

技術系の企業から「技術に関しては優秀なのだが、いざ“文書にまとめる”となると的確に進められない人材が多い」とお聞きすることがあります。常々、私にはこれが矛盾とも受け取れ、かつここから問題の本質が見えてくるように思います。本来は、「技術に関して優秀な(すなわち論理を把握でき、解を導ける)人こそ“技術文書”の作成が得意」なのです。

問題は、技術系企業での文書作成を「あたかも学校教育での国語(作文あるいは文学の読解)ととらえがち」な点にあると考えます。そこから、「では、大学を含め学校教育で実務文書の作成手法を体系的に学ぶ機会はあったのか」という疑問が生じます。この疑問には、否と答えるしかありません。

問題の本質は、技術文書あるいは実務文書を作成する手法を体系的(文書目的、規模など)に習得しないまま文書作成の業務に直面し、しかたなしに「技術文書⇒文書⇒国語⇒苦手」と思い込まざるをえない状況にあると言えます。苦手と位置付けるから避けてしまいがち(言語力を活用せず)になり、その結果さらに苦手になる負の連鎖に陥りやすくなります。


テクニカルライティング=ロジカルシンキングの最小原理を包含した文書作成

情報を整理し、そこから「論理」を見い出し「伝わる論述(あるいは弁論)」につなげる手法こそ、本サイトで提唱する 「テクニカルライティング」です。

技術者の方々は技術課題を解決する際にロジカルシンキング(課題を構成する要素の関係を明らかにし、その帰結を解決策と位置付ける思考を基盤にしたさまざまな問題解決手法を取り入れられていると思います。言わば、テクニカルライティングは、ロジカルシンキングの最小原理を包含した文書作成手法と言えます。

本サイトで提唱するテクニカルライティングでは、「帰結=要点を主題(見出し)の直後(段落の最初)に置く」をポイントにしています。読者は、なによりも主題に対する答えを求めています。執筆者が書き進める際は「主題−論理の構造化−帰結(要点)」であっても、最後に「主題−要点−補足(構造化された論理)」の構成に調整する必要があります。


テクニカルライティングの視点で考える「まとめられない」原因と対策

論理を分析し得られた要点を段落の“最初に置く”のがテクニカルライティングの基本です。「主題−要点−補足(構造化された論理)」を最終形としつつ、まずは論理構造を“書くこと”によって視覚化し、その「大局」を要点として導く過程を踏むのがポイントです。 「まとめられない」状況は、執筆者が「主題−要点−補足(構造化された論理)」の各要素を曖昧にとらえている場合に陥りやすくなります。

原因と対策その1:「考える」と「書く」の無理な同時進行を避ける

しばしば、「書きながら考える」として論理の構造を把握しないまま書き始め、「文が浮かばず行き詰まってしまう」となげく方がいます。この原因は、「書くことによって論理を構造化し、そこから結論を導く」過程を簡略化しすぎ、「論理構造化しないまま、要点をまとめようとする(論理構造を考えると要点を導くの同時進行)」からと言えます。むしろ、「論理構造を表す」と「要点を導く」を同時進行とせず、分割するのが得策です。

原因と対策その2:葛藤の繰り返しを止める

書きめると、配慮しなければならない事項や相反する事項があれこれ思い浮かび、行き詰まってしまう」という方にも出会います。「自分の考えはこれだ」と思って書き始めたが、「読者が疑問をもつかもしれない」、「反論されるかもしれない」と必要以上に自問し葛藤した結果、まとめきれずに書く手が止まる状況と言えます。この原因は「まとめる」を必要以上に「“一つ”にまとめる」としてとらえすぎと言えます。“無理がある一つにまとめる”ではなく、要点(主)と条件(従)の関係で構成する発想も必要です。

原因と対策その3:「視点」を意識する

ここでの「視点」とは、「文書における主体」を指します。たとえば、報告書ならば「私は・・・」、「私の・・・」、「私にとって・・・」など執筆者自身が主体です。仕様書・契約書ならば「私たちは・・・」、「私たちの・・・」、「私たちにとって・・・」など執筆者と読者の一対が主体です。さらにマニュアルならば「あなたは・・・」、「あなたの・・・」、「あなたにとって・・・」など読者(ユーザ)が主体です。ところが日本語では、文書目的そのものに主体が含まれる(“私の”報告書)として特に強調する以外は主体を省略して文を表します。ところが文では省略しても、頭の中では明確に位置付けておかないと発想の方向性が曖昧になり、文がまとまりづらくなります。


発想の転換で解決できる「考えが文にまとまらない」

執筆者自身が書くべき対象(技術あるいは製品)を理解しているならば、どのような順序(もしくは視点)で論述すべきかがテクニカルライティングの一部に位置付けられている」ことをお伝えするのが本セクションの主旨です。

「ワープロに向かっていると書けないが、席を外してほかの作業をしていると急に要点となるべき文が浮かんでくる」という経験はないでしょうか。皮肉なことに、書く作業をしていると文が浮かばす、書く作業から解放されると意識下にあるキーワードが論理的に構築され単純かつ重要な文がはっきりと“浮かんでくる”場合があります。技術的な問題を解決する際にも同様な経験がおありではないでしょうか。

「考えが文にまとまらない」という課題をかかえておられる方から「文献を多く読めばよいのか」、「脳トレのような言語力強化のトレーニングをするとよいのか」、さらには「パターンに語を当てはめてゆくと要約された文ができる理論なり方法があるのでは」と問われることがあります。「YesかNoで答えよ」とされるならば、私の答えは「問題の本質(文まとまらない)とのずれがあり、技術文書の作成においてはNo」です。

繰り返しになりますが、「技術文書を作成しようとしているが、考えが文にまとまらない」を「考えが文にまとまらないのは、言語力がないのが原因」に結び付けるのは短絡的で危険です。「順を踏んで考えを言語化し、要点の発想と言語化につなげる」を手法 、すなわちテクニカルライティングの手法を体得していただくことこそ企業の論述力、ひいては企業力につながると言えます。


次ページに進む(ボタンをクリックしてください)

コーナーはPDFファイル版でもご覧いただけます。



実践テクニカルライティングセミナー
マニュアル作成の進め方とわかりやすいマニュアルのポイント
Copyright: Takaaki-YAMANOUCHI/1995-2020
山之内孝明/有限会社 山之内総合研究所
Takaaki Yamanouchi/ Yamanouchi Research Institute, Ltd.