

「行為」と「動作」の二重解釈につながる文の見直し方
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主語を曖昧に位置付けると、述語が「行為(人が主語)」あるいは「動作(事物が主語)」のいずれにもとれてしまう文に陥る場合があります。技術文書での行為と動作の二重解釈は重大な誤解につながりかねませんし、翻訳される際に誤訳をまねくおそれがあります。
[注] 当コーナーでは、人が主語(主体)となる場合を「行為」、事物が主語(主体)となる場合を「動作」と称します。「人の動作」と表すのも不自然ではありませんが、「人の行為」と「事物の動作」が混在する技術文書の文体を検討する必要上、便宜的にそれぞれを使い分けます。
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二重解釈につながりやすい他動詞文「“実は主語ではない事物”は-を-する」の見直し方
「行為の対象となる語(主語ではない語)」を「事物は」と取り上げ「 行為と動作で共通して用いる述語」で結ぶと、「行為」と「動作」のいずれにも取れてしまう文に陥る場合があります。
「行為から動作への変換」がテーマでもある機械化・自動化分野の技術表現では、慣用的に「行為(例:保存)」と「動作(例:保存)」のいずれにもに用いられる述語が多用されます。とりわけ、取扱いマニュアルで文頭の「**は」の位置付けを曖昧にすると、「行為」と「動作」の二重解釈が起きやすくなります。

取扱いマニュアルの解説文を例にした見直し方−「行為」を主体にした文体への変換−
個々の文で「行為」と「動作」を区別する以前に、文書を作成する際は「文書全体で何を主たる視点にするか」を念頭におく必要があります。たとえば、取扱いマニュアルでは「ユーザの行為と製品の動作の関係」を「ユーザの視点」で述べるのが原則と言えます。
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前節で『日本語では、主となる視点(人称に相当)を文書あるいは段落で統一し、文中でこれが主語となる場合は省略するのが一般的』と述べました。取扱いマニュアルならば、「ユーザ(読者:あなた)」が主(省略された主語)になる文が主体となります。
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ところが、取扱いマニュアルの執筆者(開発者)は製品の視点(「事物」が中心)で解説しがちです。「事物は動作する」を多用し、その延長で「事物は行為をする」ともとれてしまう文に陥っている例を見かけます。
取扱いマニュアル以外の文書でも『誰の(あるいは何の)視点で文書あるいは段落を構成しているのか』を念頭において執筆する習慣が定着すると、文の不自然さがなくなり要点が明確に伝わる文書につながると思います。
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前述の取扱いマニュアルならば、「ユーザ(読者:あなた)」が主たる視点となり省略の対象となります。対して、報告書ならば「報告者である私たち」が主たる視点であり省略の対象と言えます。いずれの場合も、主たる視点以外の主語は“不要に”省略しないのが基本です。
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ここでの“不要に”とは、「技術文書で一般的な執筆者と読者の関係の範囲を越えて」の意です。通例、技術文書では「(私は)・・・を解説します」、「(あなたは)・・・を参照してください」と“執筆者と読者が仮想的に向かい合った構図”が前提となり、その構図の範囲で主語(私は、あなたは)を省略するならば不自然にはなりません。ただし、事物(しばしば複数)と読者あるいは第三者の関係を表す際に主たる視点を曖昧に位置付けてしまうと、行為あるいは動作の主体も曖昧になってしまいます。
当然ながら「日本語と英語はその基本において異なる」という点を付け加えておきます。日本語と英語の違いを曖昧にすると、前述のような「行為と動作の二重解釈につながる文」あるいは次節で述べる「英文直訳風」文体に陥りやすくなります。

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