

段落の「主文-補足文」構成
−「見出し」に対する「全体」と「部分」を“隠れた”導入語にして文を引き出す−
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前のセクションで
段落の「主文−補足文」構成を提唱しました。当セクションでは、「主文−補足文」構成が技術文書を作成する際の理にかなったアプローチであることを順を追って解説するとともに、いくつかの応用手法を示します。
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ステップ1:「段落」とは、「主文−補足文」構成とは
段落とは
「文書で“なんらかの”要点を表す一区切り(一般に複数の文で構成)」です。対話でも、相手が“要点を聞き取ろうとする一区切り”があります。文書でも対話でも、人は“ある一区切り”で要点とそれにかかわる事項を伝えようとしますし、相手も1文(あるいは一言)だけで判断せず、その一区切りで理解しようとしてくれます。
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日本語の実務文書で読みやすいとされる段落の長さの目安は、150字(A4版縦使い・横書き・10ポイントの行数に換算して3.5行程度)です。また、読みやすい1文の長さは50〜100字程度(行数に換算して1行ないし2行)とされています。段落を2文ないし3文で構成するのは読みやすさからも理にかなっています。
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ただし、無理に150字の目安にこだわる必要はありません。「長い用語が多い」あるいは研究報告のように「論述を進める」際は段落が200字を超える場合もあります。要は、「読者に負担をかけない限度」あるいは「執筆者が要点の方向性を見失わない限度」を考慮しながら執筆することが重要です。
「主文−補足文」構成とは、段落を「見出し(主題)に対応して主たる1文(要点)」と「主文を補足するいくつかの文」で構成するテクニカルライティングの一手法です。それぞれを「主文」、「補足文」とよび、主文を最初に置くのが原則です。主題を無理に1文で表さず、「全体と部分(構成要素)」あるいは「主体と補足」としてとらえて表す手法です。

技術文書に限らず、何事も「全体と部分(構成要素)」あるいは「主体と補足」による理解から成り立っていると言えます。全体だけでも部分だけでも理解できませんし、主たる事項だけでは理解が不十分になります。
技術を解説するには、「読者に負担がない長さの段落で主文と補足文を関係付けて表す」のが有効です。
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「最初の1文が書けない」あるいは「第1文が書けても、その先が続かない」のは、執筆者が“1文単位で書く(1文を完成する)”にこだわり過ぎている可能性があります。1文単位ではなく「段落」という「文と文による構造」を想定し、思考の一部分でも文に表し、それを補足する他方の文を表して双方を調整すれば1段落が構成されます。
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「ほぼ1文ごとに改行して表す」習慣の執筆者もいらっしゃいます。メールの場合は別として、ワープロ文書で改行を繰り返すと主文と補足文の関係が曖昧になり、かえって要点の所在が不明確になります。むしろ、改行せず1段落にするか、あるいは後述するように「主文と箇条書き」の構成にするのが適当です。
ステップ2:隠れた導入語−「全体と部分」、「主体と補足」−
先に述べたように「なんらかの“きっかけ”で文が書ける」のは、文の方向性を決める「導入語」が見つかったからと言えます。この導入語は文に表される場合もありますが、むしろ“きっかけ”であって文に表れない“隠れた”導入語である場合があります。この“隠れた”導入語こそが、用語が文になる方向性を与え「書けない」を「書ける」に導くと言えます。
「主文−補足文」構成は、この“隠れた”導入語を内包した段落構成と言えます。「全体と部分(構成要素)」の構成から、主題(見出し名)に対し“全体としては”と“その部分は”という導入語が導かれます。また、「主体と補足」の関係からも同様な導入語が導かれます。
さまざまな技術文書(報告書、製品解説あるいは機能仕様書)の段落を分析してみると、「全体と部分(構成要素)」あるいは「主体と補足」の関係のバリエーションとも言えます。「わかっているのだが、書けない」状態を打開する一手法として「全体としては」と「その部分は」あるいは「主体は」と「主体に関する補足は」の“隠れたキーワード(きっかけ)”にして段落をまとめるのが有効です。

ステップ3:「主文−補足文」構成のポイント−要点を最初に置く−
「主文−補足文」構成のポイントは、主文を見出しの直後(段落の最初)に「置く」ことです。主文を最初に書くにこしたことはありませんが、“必ず最初に書く”ではなく“最初に置く”です。補足文(たとえば経緯・理由)を先に書いて主文(要点)を後から書いても、最後に調整して「見出しの直後に置く」で差支えありません。
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技術を述べる際に、つい理由・条件・経緯など“いきさつ”から述べ始めてしまいますが、読者は要点を求めています。技術文書では見出しの直後に要点を置くのが基本です。要点を最初に置けば、読者から見落とされる心配もありません。また、その直後で裏付けを述べれば、要点を知ったうえで読んでくれます。結論を知らされず他者の論理を読まされるあるいは聞かされるのは、フラストレーションの原因になりますし要点も伝わりづらくなります。
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たとえば、取扱い説明書で「安全に関する注意事項」を述べる際に理由を先に述べる例はまずありません。最初に主文として「してはならない事項」を明確な文体で述べます。その後に必要に応じて理由として「注意を怠るとまねくおそれがある事象」を述べるが原則です。
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ただし、“絶対に最初に置く”ではありません。回りくどい段落を避けるための“強い原則”とご理解ください。報告書で執筆者が論述を展開する際、見出し構成によっては「要点」が読者にとって“飛躍”と受け取られかねない場合があります。だからと言って、「報告書は要点が段落の最後よい」ではなく、読者と理解の整合を図ったその後に置くのが適当です。
読者が読む際に第1文で適切に要点が述べられていればよいのですから、執筆者が書く際は第1文が中途でも第2文に進み、その後で第1文を完成しても差支えないはずです。むしろ、相互の文の関係が明確になる可能性が高くなります。要は、「1文を書く」のではなく「段落を構成する」です。
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原稿を作成してから話す場合は別として、対話で説明する際に長い1文を考えてから話すでしょうか。まず思考から一つのキーワードを取り出し、話しながら文を作り、必要ならばさらにその文を補足して1段落に相当する話をします。「話す」と同様に、「書く」も「段落で構成するという発想」が思考の文章化に適していると考えてみてください。対話は後戻りできませんが、ワープロならば段落を後から見直せます。
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また、論文あるいはページ数が多い調査報告の要旨も文書上の配置では冒頭ですが、まとめるのは執筆の最後でもかまわないはずです。

「要点を述べる」と「要約する」の違い
要点とともに条件・理由・経緯を短く(とりわけ1文に)述べようとすると、「要約」になります。ただし、「要約」は文構造が複雑になりやすく、読者のみならず執筆者にも負担です。「要約」における要点を幹とするならば、枝葉である付随事項が要点を見えづらくするおそれがあります。執筆者も要点の幹に付帯事項の枝葉をバランスよく配置しなければなりません。
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「1文に要約」が悪しき習慣であると申し上げるつもりはありません。特定の分野(例:特許出願文の一部)では、結論に条件が付随することを文構造から明確にするために意図して1文に複数の条件を織り込む慣例があるようです。
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文字数の制約を伴う「文書のアブストラクト(抄録)」をまとめなければならない場合は、文書全体の要点を執筆者自身が十分に把握したうえで臨む必要があります。枝葉に相当する付随事項は簡略な表現にとどめ、文書の論旨で構成するのが適当です。
「要点を述べる」と「要約する」は、似ているようで異なります。「要点を述べる」とは、本来は要点とそれに関わる補足事項を整理・関係付ける論理化の一部を指します。対して「要約する」とは、ある文書の論旨を短くまとめる圧縮化を指します。
「主文−補足文」構成のメリット−「もれがない段落」と「より踏み込んだ段落」−
主文と補足文で段落を構成すると、思考から文にまとめやすくなるとともに主文と補足文それぞれに重要事項のもれがなくなるメリットがあります。無理に1文でまとめようとすると、主たる事項にも補足的な事項にも述べておかなければならない事項が文章上の制約(長文になるあるいは修飾語が増える)からもれてしまう傾向があります。
「補足」を単に「主文で読者が知らない用語を使った際の補足」ととらえると、消極的な位置付けと受けとられるかもしれません。むしろ、主文で要点を述べることにより、補足文でさらにその先の展開を述べることができます。

「主文−補足文」構成のメリット−段落構造の視覚化−
「主文−補足文」構成を推し進めると、“視覚的な”表現につながります。ここでの視覚的な表現とは、書式(注記、箇条書き、表など)で「主文と補足文の関係」あるいは「補足文と補足文の関係」が“見てとれる”表現を指します。
複数の補足文に並列関係(あるいは順序関係)がある場合は、箇条書きに表すとその関係が明確になります。あるいは「行と列」の関係にあれば表にできます。また、表は対比の関係にある補足文を表すのにも有効です。見方を変えれば、箇条書き、表は補足文の構造化・視覚化と言えます。
前述の「要点を後から書いても、要点を最初に置く」の考え方からすれば、まず論理の構造を簡略に箇条書きに表し、そこから要点を導き最初に置くのも有効です。

[補足] 当コーナーの「主文−補足文」構成
当コーナーも「主文−補足文」構成を基本にして表しています。第1文を見出しに対応した主文(要点)と位置付けていますが、必要に応じ導入文を述べ続けて主文を配置しています。
また、段落が長くなった際、文の主従関係を視覚的に表すために「副本文(冒頭に記号を付した補足)」の手法を用いています。
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