執筆の知識
用字用語の選び方と用例


漢字書きが適当な語」および「漢字書きとひらがな書きの使い分けが適当な語」の例

   

先のセクションでは漢字書きよりでひらがな書きが適切な例を示してきましたが、当セクションでは漢字書きが適切だがひらがな書きをしやすい例を示します。また、漢字書きとひらがな書きを使い分けたほうが適切な例もいくつか示します。

 掲載した事例に関する付帯事項

  • 当セクションで取り上げた用例は、技術文書をはじめとする実務文書でよく使われる表現からの抜粋です。

  • 当セクションで取り上げた 用法は、複数の用字用語辞典を参考にしています。用字用語辞典で許容(複数の表記のいずれを用いてもよい)されている場合は 、複数をそのまま掲載するあるいは各種の出版物の傾向および慣用例を勘案して筆者が判断しています。


漢字書きが適当な語

あえてひらがな書きにするより、漢字書きにするほうが誤解がなく意味が明確になる例です。また、カタカナ書きは固有名詞に限るのが適切な語もあります。

 

ひらがな表記 (カタカナ表記)
漢字・かな表記
備 考
(あきらか)
らか
明らかに変わる
(-あたり)
-たり
1日当たり  注:(許容)-当り
(あらた)
新たに開発した 代替:新規に
(おもな)
主な原因に
(かかわる)
わる
本件に関わる事項 注1:平成22年の常用漢字表に追加された音訓、注2:「係わる/拘わる」は表外音訓
(カ所/ヵ所/ケ所/ヶ所)
箇所/か所

1箇所 もしくは1か所  注:「個所」は表外音訓、「カ所/ヵ所/ケ所/ヶ所」は慣用表記(固有名詞に限るのが適切)

( じゅうぶん)
十分
十分に確認する 注:実務文書では「充分」より「十分」が通例
(-するさい)
-する
変更する際は
(すくない)
ない
量が少ない
(-にそって)
-に沿って
方針に沿って
(たがいに)
いに
互いに影響する
(ついで)
いで
前回に次いで
(つづき)
前回に続き
(-のなかで)
-の
この中で
(はじめに)
めに
年の初めに、初めての場合  注:「AをはじめB、,Cなど」はひらがな書き
(はじめる)
める
仕事を始める
(ひとつ、ふたつ)
つ、
二つの問題がある  注:多い場合は数詞を使う表現が適切
(もとに)
前例を基に

 


漢字書きとひらがな書きの使い分けが適当な語−動詞⇔接続詞−

接続詞で使う場合はひらがな書き、動詞で使う場合は漢字書きとする慣用があります。

 

漢字書き (動詞)
ひらがな書き(接続詞)
二つをせる

あわせて、○○の対策が・・・

影響をぼす

AおよびB

規則に

したがって、本件は

過去の例でえる

たとえば/えば  注:漢字書きにする場合もある

原料を使いたす

たして、結果は・・・

 

 


漢字書きとひらがな書きの使い分けが適当な語−「事物」を指す名詞⇔形式名詞、その他−

先に述べたように、形式名詞(修飾語を伴って意味をなす名詞)はひらがな書きが通例です。ただし、具体的な「事物」を指す際は名詞として使く際は漢字書きにします。

 

漢字書き(「事物」を指す名詞)
ひらがな書き(形式名詞、その他)
が起きる 【出来事・事態】

変化することがある 【事象・場合】

がたつ 【時間・期間】

変化したとき 【時点】

変化した 【場所・箇所】

現状のところ 【状態】

低いへ 【方角・方向】

AよりBのほうが 【比較・選択 または方向性・方正】

がある 【物体】 / 見た者  【人】

正しいものとする 【事柄】

 

 


漢字書きとひらがな書きの使い分けが適当な語−「事物の動き」を表す動詞⇔補助的に使う動詞、その他−

「事物の動き」を表す際は漢字書きにするのに対して、他の動詞などに付けて補助的に用いる際は漢字書くにする動詞があります。また、動詞の意味によって漢字書きとひらがな書きを使い分ける場合があります。

 

漢字書き(「事物の動き」を表す動詞)
ひらがな書き(補助的に使う動詞、その他)
物をく 【設置】

保存して 【状態の維持】

前を通りぎる  【通過】

ぎる 【過剰】 /-にぎない  【強調】

処理がむ/使用み  【終了・完了】

追加しないでむ 【「治める ・仕舞う(終わりとする)」の意】

身にける/番号をける (番号き)/条件き 【 付帯・付属・付与】

く(気をける)/近ける/見ける 【補助動詞的用法】 

1個にき 【「-に」を伴って「対して/関して/ごとに」の意】 

める 【開始】  初めて  【最初】

本件をはじめ 【筆頭・先頭】

手で 【人が所有・所持】

機能を 【事物が保有・実装】

二つにける 【分離・分割・分別】

事実がかる 【理解・判明】・

 


漢字書きとひらがな書きの使い分けが適当な語−「対象」を指す名詞⇔副詞および副詞的に使う語−

名詞で使う語を副詞あるいは副詞的に使う際にひらがな書きにする場合があります。

 

漢字書き (「対象」を指す名詞)
ひらがな書き(副詞および副詞的に使う語)

一つを取り出す 【名詞】

ひとつ試してみよう 【副詞的用法】

問題を一つひとつ解決していく 【副詞的用法】

も変わらない 【代名詞】

なんら問題はない 【副詞】

 


「本来の意味」によって漢字書きとひらがな書きの使い分けが適当な語

同じ読みであっても、意味が異なる場合は異なる漢字を使うか一方をひらがな書きにする場合があります。とりわけ、マニュアルなどで危惧すべき事項を示す際の「おそれがある」はひらがな書きが通例です。

漢字書き表記
ひらがな書き
高所をれる/暗闇にれを感じた 【恐怖・怖がる】

台風が接近するおそれ/故障のおそ 【心配・危惧】 *表外漢字「虞(おそれ)」

おそらく 【多分/きっと】

 


参考および引用文献

常用漢字表( 平成22年11月30日)内閣告示
野村雅昭 編:「東京堂 用字用語辞典」、東京堂出版、1981
当ページの表を作成するにあたり用語選択の参考にしました。

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