

使い分けの「より所」−常用漢字表−
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常用漢字表というと、国語辞典の巻頭(あるいは巻末)に掲載された1945字の一覧表を思い出されるかもしれません。しかし、これは採録された字種の一覧にすぎません。本来の常用漢字表は、「字種」とともに「音訓(読み)」、「字体」、「用例」さらには例外を示した冊子です。 |
「常用漢字表」とは
常用漢字表は、現代国語での漢字使用のより所として漢字の字種(2,136字)、音訓(漢字の読み)、字体(漢字の形)ならびに音訓に応じた用例が採録された冊子です。また、付表として社会生活を表すのに必要な当て字・熟字訓
も採録されています。
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昭和56年以前の教科書を使った世代には「当用漢字」のほうがなじみ深いかもしれません。常用漢字表は、その後継版にあたります。
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常用漢字表は昭和56年(1,945字)に初版が告示された後、平成22年の改定により字種の追加(196字)・削除(5字)および音訓の変更・追加がなされました。
常用漢字表の主旨は「より所」であり「目安」です。固有名詞や専門用語あるいは過去の表記まで常用漢字表に従って書き直さなければならないというわけではありません。また、何がなんでも従わなければならないという規則でもなく、むしろ実情にあわせた使い方をすべきとされています。
一 |
この表は、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すものである。 |
二 |
この表は、科学・技術・芸術その他の各種専門分野や個々人の表記まで及ぼそうとするものではない。 |
三 |
この表は、固有名詞を対象とするものではない。 |
四 |
この表は、過去の著作や文書における漢字使用を否定するものではない。 |
五 |
この表の運用に当たっては、個々の事情に応じて適切な考慮を加える余地のあるものである。 |
常用漢字表の主旨で重要な点は、現代の国語を書き表す際の漢字使用の目安であるということです。つまり、現代国語における漢字使用の一つの上限を示していると言えます。
表外漢字の扱い方
技術文書を執筆する際、一般用語には常用漢字表にない漢字、すなわち表外漢字の使用を避けるのが基本です。
専門用語も混乱をきたさない限り表外漢字の使用を避けるのが適当です。
同じ語が専門用語としても一般用語としても使われる場合があります。原則で考えると、一般用語として使う場合にはひらがな書き、専門用語として定着化しているならば漢字書きになります。専門用語も徐々に常用漢字表に準拠しつつあります。新規に用語を使う際にはできるだけ常用漢字表に沿うことを勧めます。
表外音訓の扱い方
漢字の字種とともに重要なのは音訓(読み)です。技術文書を執筆する際、一般用語には常用漢字表にない音訓、すなわち表外音訓の使用を避けるのが基本です。
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前述のように、常用漢字表は単なる字種の表(漢字の一覧表)ではありせん。漢字の字種(2,136字)、音訓(漢字の読み)、字体(漢字の形)および用例が総合的に示されています。漢字の字種だけの表をよく見かけるので一覧表と誤解されがちです。
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「予め」は表外音訓です。「あらかじめ」とひらがな書きするのが適切です。しかし、「よ(音読み)」とは読みますから「予想」、「予感」、「予測」などのような使い方をします。ただ、字種でとらえるのではなく、字種と音訓(読み)を対にして扱うのが適当です。
慣用的な用法の扱い方
その主旨が示すように、常用漢字表は「漢字使用の目安」であり“規則”ではありません。「表外漢字と表外音訓を避ける」ことは必要条件ですが、それだけでは“社会になじんだ”国語にはなりません。
「常用漢字表の字種・音訓だが、ひらがな書きが定着した慣用表記」も考慮しなければなりません。この“慣用”という語が曖昧で議論のもとになりがちですが、慣用の存在は認めなければなりません。
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