先に「校正」を、校正刷と原稿を照らし合わせて修正すべき点を校正刷に赤字で記入する作業(赤字入れ)と、さらにこれを修正したものと赤字を入れた校正を照らし合わせて確認する作業(赤字合わせ)と述べました。
修正の赤字を入れたりする編集用の仮印刷物を校正刷と総称しますが、とりわけ製作担当者が原稿をもとにページレイアウトしたもの、すなわち最初に作成される校正刷を「初校」とよびます。この初校での校正作業をここでは「初校校正」とよぶことにします。
この初校を修正したものが「再校」であり、再校を修正したものが「3校」ということになります。当然、「4校」、「5校」という用語もありますが、校正の回数は多ければよいわけではありません。3校程度で修正が完全になくなるように作業を管理するのが基本です。
初校校正は、「原稿」と「初校」を左右に見やすく並べて行うのが基本です。右手で赤字を入れるならば、左側に原稿を右側に初校を置くことになります。
しばしば、初校校正の際に原稿を手元に置かない人がいます。「ワープロ原稿だから校正と同じ」とか「自分で書いた原稿だから内容はわかっている」というのが理由だと思います。しかし、ワープロ原稿であっても手書きで原稿指定をしている場合もあります。また、自分で書いた原稿だからといって記憶にたよっていては曖昧になります。
原稿の内容と原稿に入れた指定を見ながら、初校が正しく仕上がっているか確認し、もし間違っていればその箇所に赤字で訂正内容を記入します。
手書き原稿の場合は、原稿と初校を数語ずつ引き合わせるのが原則です。1語ずつでは手間がかかりすぎますし、1文ずつでは見落としやすくなります。
テキストファイル原稿の場合には、1行あるいは1文程度ずつでもよいと思います。ただし、文字書式が正しく設定されているか、「文字化け」していないか注意しながら校正する必要があります。
赤字は製作担当者が明確に理解できる必要があります。訂正箇所(あるいは挿入箇所)から引き出し線を入れ初校の欄外に丁寧に記入します。
校正には「校正記号」を使うのが基本です。しかし、プロの編集者のようにすべての校正記号を知っておく必要はありません。「訂正」、「挿入」、「入れ替え」に加えて「改行」、「空ける」、「つめる」程度を覚えておくだけでも十分です。要は製作担当者に正しく意が伝わることが重要であり、校正記号で表現できなければ具体的にコメントを欄外に記入しておきます。
初校校正のポイントとして次の2点をあげたいと思います。
校正で「内容を読まない」と述べると奇妙な印象を受けるかもしれません。しかし、初校校正は「原稿」と「初校」を照合して誤字誤植や組版体裁の誤りを見つけるのが目的です。内容を読んでしまっては誤りが見つけにくくなります。読むよりも「注意深く見る」つもりで校正してください。
人には、情報に誤りがあったり情報が欠けていても、それを無意識に訂正したり補完する特性(あるいは能力というべきかもしれません)があります。ごく一部分に誤りがあっても前後の部分が正しければその誤りを見て見過ごす癖のようなものがあると思います。
ある意味でこれが文書の誤りの原因の一つかもしれません。校正作業をする際は、この人間的な癖を封じてあたかも「機械」のようにチェックするのがコツです。プロの編集者は、この「人間的な癖」と「機械的な精密さ」をうまくコントロールしていると思います。
「一度に複数のチェックをしない」というのは、「文章の引き合わせをするときはそれだけをする」、「図番号の確認をするときはそれだけをする」ということです。文書の1ページはさまざまな要素(文章、図、ヘッダ、ページ数など)から構成されています。これらを一度にチェックしようとすると必ずもれが出てしまいます。
これも人の特徴かもしれません。人は一度にいくつものことができません。一つに集中すれば他に気がまわらなくなります。先の「内容を読まない」と併せて、校正とは人の特性と深く関係している作業であり、プロの編集者はそれを経験的に理解し応用しているのです。
初校校正の基本は、初校と原稿を照らし合わせて修正すべき点を初校に赤字で記入する「赤字入れ」ですが、もう一つ「基本体裁の確認」という作業があります。つまり、原稿が適切にページレイアウトされているか出版物としての体裁を確認することです。直すべき点があれば赤字入れと同じ方法で修正を記入します。
文字や文章を確認するだけが初校校正ではありません。見出し番号、図・表、番号、ページ番号などの各種番号や図・表挿入位置やヘッダなどを初校で確認しておけば後の工程での修正が少なくなります。
初校段階でできるだけ問題点を洗い出しておくことが後の作業を円滑にするコツといえます。基本体裁の確認が終わったら手元控え用にコピーをとり、これには「正(控)」と明記します。赤字が入った「正」を製作担当者に渡して再校を依頼してください。
テクニカルライティングセミナー
マニュアル作成の進め方とわかりやすいマニュアルのポイント
Copyright:Takaaki-YAMANOUCHI/2002-2010
山之内孝明/有限会社 山之内総合研究所
Takaaki Yamanouchi/ Yamanouchi Research Institute,Ltd.
takaaki@yamanouchi-yri.com