テクニカルライティングをより理解いただくために
技術文書の「書き方」−共通のポイントと各種文書への応用−


段落の「主文-補足文」構成
−「見出し」に対する「全体」と「部分」を“隠れた”導入語にして文を引き出す−

   

前のセクションで 段落の「主文−補足文」構成を提唱しました。当セクションでは、「主文−補足文」構成が技術文書を作成する際の理にかなったアプローチであることを順を追って解説するとともに、いくつかの応用手法を示します。


ステップ1:段落」とは、「主文−補足文」構成とは

段落とは 「文書で“なんらかの”要点を表す一区切り(一般に複数の文で構成)」です。対話でも、相手が“要点を聞き取ろうとする一区切り”があります。文書でも対話でも、人は“ある一区切り”で要点とそれにかかわる事項を伝えようとしますし、相手も1文(あるいは一言)だけで判断せず、その一区切りで理解しようとしてくれます。

「主文−補足文」構成とは、段落を「見出し(主題)に対応した主たる1文(要点)」と「主文を補足するいくつかの文」で構成するテクニカルライティングの一手法です。それぞれを「主文」、「補足文」とよび、主文を最初に置くのが原則です。主題を無理に1文で表さず、「全体と部分(構成要素)」あるいは「主体と補足」としてとらえて表す手法です。

 段落の「主文−補足文」構成

技術文書に限らず、何事も「全体と部分(構成要素)」あるいは「主体と補足」による理解から成り立っていると言えます。全体だけでも部分だけでも理解できませんし、主たる事項だけでは理解が不十分になります。技術を解説するには、「読者に負担がない長さの段落で主文と補足文を関係付けて表す」のが有効です。


ステップ2:隠れた導入語−「全体部分」、「主体補足」−

先に述べたように「なんらかの“きっかけ”で文が書ける」のは、文の方向性を決める「導入語」が見つかったからと言えます。この導入語は文に表される場合もありますが、むしろ“きっかけ”であって文に表れない“隠れた”導入語である場合があります。この“隠れた”導入語こそが、語が文になる方向性を与え「書けない」を「書ける」に導くと言えます。

「主文−補足文」構成は、この“隠れた”導入語を内包した段落構成と言えます。「全体と部分(構成要素)」の構成から、主題(見出し名)に対し“全体としては”と“その部分は”という導入語が導かれます。また、「主体と補足」の関係からも同様な導入語が導かれます。

さまざまな技術文書(報告書、製品解説あるいは機能仕様書)の段落を分析してみると、「全体と部分(構成要素)」あるいは「主体と補足」の関係のバリエーションとも言えます。「わかっているのだが、書けない」状態を打開する一手法として「全体としては」と「その部分は」あるいは「主体は」と「主体に関する補足は」を“隠れたキーワード(きっかけ)”にして段落をまとめるのが有効です。

“隠れた”導入語−「全体と部分」,「主体と補足」−


ステップ3主文−補足文」構成のポイント要点を最初に置く

「主文−補足文」構成のポイントは、主文を見出しの直後(段落の最初)に「置く」ことです。主文を最初に書くにこしたことはありませんが、“必ず最初に書く”ではなく“最初に置く”です。補足文(たとえば経緯・理由)を先に書いて主文(要点)を後から書いても、最後に調整して「見出しの直後に置く」で差支えありません。

読者が読む際に第1文で適切に要点が述べられていればよいのですから、執筆者が書く際は第1文が中途でも第2文に進み、その後で第1文を完成しても差支えないはずです。むしろ、相互の文の関係が明確になる可能性が高くなります。要は、「1文を書く」のではなく「段落を構成する」です。


要点を述べる」と「要約する」の違い

要点とともに条件・理由・経緯を短く(とりわけ1文に)述べようとすると、「要約」になります。ただし、「要約」は文構造が複雑になりやすく、読者のみならず執筆者にも負担です。「要約」における要点を幹とするならば、枝葉である付随事項が要点を見えづらくするおそれがあります。執筆者も要点の幹に付帯事項の枝葉をバランスよく配置しなければなりません。

「要点を述べる」と「要約する」は、似ているようで異なります。「要点を述べる」とは、本来は要点とそれに関わる補足事項を整理・関係付ける論理化の一部を指します。対して「要約する」とは、ある文書の論旨を短くまとめる圧縮化を指します。


主文−補足文」構成のメリット「もれがない段落」と「より踏み込んだ段落」

主文と補足文で段落を構成すると、思考から文にまとめやすくなるとともに主文と補足文それぞれに重要事項のもれがなくなるメリットがあります。無理に1文でまとめようとすると、主たる事項にも補足的な事項にも述べておかなければならない事項が文章上の制約(長文になるあるいは修飾語が増える)からもれてしまう傾向があります。

「補足」を単に「主文で読者が知らない用語を使った際の補足」ととらえると、消極的な位置付けと受けとられるかもしれません。むしろ、主文で要点を述べることにより、補足文でさらにその先の展開を述べることができます。


主文−補足文」構成のメリット−段落構造の視覚化−

「主文−補足文」構成を推し進めると、“視覚的な”表現につながります。ここでの視覚的な表現とは、書式(注記、箇条書き、表など)で「主文と補足文の関係」あるいは「補足文と補足文の関係」が“見てとれる”表現を指します。

複数の補足文に並列関係(あるいは順序関係)がある場合は、箇条書きに表すとその関係が明確になります。あるいは「行と列」の関係にあれば表にできます。また、表は対比の関係にある補足文を表すのにも有効です。見方を変えれば、箇条書き、表は補足文の構造化・視覚化と言えます。

前述の「要点を後から書いても、要点を最初に置く」の考え方からすれば、まず論理の構造を簡略に箇条書きに表し、そこから要点を導き最初に置くのも有効です。


[補足] 当コーナーの「主文−補足文」構成

当コーナーも「主文−補足文」構成を基本にして表しています。第1文を見出しに対応した主文(要点)と位置付けていますが、必要に応じ導入文を述べ続けて主文を配置しています。

また、段落が長くなった際、文の主従関係を視覚的に表すために「副本文(冒頭に記号を付した補足)」の手法を用いています。


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